福祉コラム
二つのノーベル・ショー
年末年始を控え、慌ただしい時期到来である。そんな時には、ジョン・レノンの「ハッピー・クリスマス」を聞きながら一年を振り返るのはどうだろう。忙中閑あり、と居直るのも悪くない。
“Happy Xmas (War Is Over)”
ジョン・レノン作詞
So this is Xmas And what have you done Another year over And a new one just begun And so this is Xmas I hope you have fun The near and the dear one The old and the young A very Merry Xmas And a happy New Year Let’s hope it’s a good one Without any fear
And so this is Xmas (war is over) For weak and for strong (if you want it) For rich and the poor ones (war is over) The world is so wrong (now) And so happy Xmas (war is over) For black and for white (if you want it) For yellow and red ones (war is over) Let’s stop all the fight (now)
A very Merry Xmas And a happy New Year Let’s hope it’s a good one Without any fear And so this is Xmas (war is over) And what have we done (if you want it) Another year over (war is over) A new one just begun (now) And so happy Xmas (war is over) We hope you have fun (if you want it) The near and the dear one (war is over) The old and the young (now) A very Merry Xmas And a happy New Year Let’s hope it’s a good one Without any fear War is over, if you want it War is over now
Happy Xmas
この歌は、愛しいものたちへのメッセージであると同時に反戦の歌でもある。
今年7月、NGO 団体の核兵器廃絶国際キャンペーン「ICANの」の地道な活動が国連で採択され、今年度のノーベル平和賞にも輝いた。何という快挙だろう。授賞式で演説したのは、活動に全力を注いできた85 歳の日本女性、カナダ在住の被爆者、サーロー節子さんである。
ヒロシマで爆風を受け、がれきの暗闇に閉じ込められた13 歳の節子さんは「光を目ざせ!」という声に導かれ、必死に光の方向に向かって這い出して助かった。授賞式では核の恐怖をこう伝えた。「核兵器は、必要悪ではなく、絶対悪なのです。私たち人類にとって核禁止条約こそ光なのです。」そして「光の方向に走ろう」と叫んだのである。地獄を経験した人の言葉ほど力強いものはない。世界中の人々に勇気と感動を与える一方、核保有国の指導者の耳には厳しく響いたことだろう。
広島平和記念館にも長崎原爆資料館にも、被爆者の遺品がたくさん展示されている。焼け爛れた服、中身が黒焦げの弁当箱、投下時刻で止まった時計等々。どれもが被爆者たちの物語である。世界10 数カ国が保有する核兵器は1万5千発。人類を破滅するには十分過ぎる。
平和を求める日本人にとって希望がもう一つ。カズオ・イシグロ氏のノーベル文学賞受賞である。ご母堂の静子さんは長崎で被爆された。二つの受賞が、核兵器廃絶と被爆に世界の耳目を集めたことは間違いないだろう。氏は「自国の利益を優先する国や極右勢力が台頭する危険な分断の時代。よい文学には、分断の壁を取り除く力がある。人類が共に立ち向かうべき英知を生みだす可能性も秘めている。」と、平和の探求に果たす文学の役割の重要性を強調した。
「目には目を、力には力を」と米国と北朝鮮の指導者が言葉の応戦で緊張を煽る今、日本を含む極東地域は、急速に危険な方向に向かっている。唯一の被爆国である日本には、核の悲惨さを訴え続け、分断を埋める大きな役割があることを忘れてはならない。
節子さんを「光に向かって進め」と闇から這い出させた不思議な「声」に我々も耳を傾け、ジョン・レノンの「戦争は終わる。あなたが望むなら。」を口ずさみながら、平和の実現に絶望せず、希望を持ち続けよう。
ヘンドン共同墓地の石碑に刻まれた「この地に生き、この地に眠る」という銘文は、石黒静子さんによるものである