二水会部

●2023年6月の報告●

日 時:6月13日(火)午後8時より

講 師:東京電力ホールディングス ロンドン事務所 小野 隆久、杉本 良介様

演 題:日本の災害による大規模停電と英国でのブラックアウト防止対策

会 場:Zoom スクリーン上

参加人数:40名

(※この文章は個人の感想であり、事実を正確に伝えることが目的のものではありません。聞き間違いなどにより、正確性に欠ける、または誤解がある可能性があります。)

コンセントを挿せば電気が使える、その裏側で何が行われているのでしょうか、という問いかけから始まりました。確かにそうです。 明かりとしての電気は当然ですが、スマホが使えなくなることを考 えただけで、世の中の風景が一変しそうです。電気を作って家庭に 届ける、技術部門はそのための施設・建物を設計、建設、運転・メ ンテナンスを行う仕事だとのお話がありました。ロンドン事務所に は、設備に関係する仕事のご担当者が多く赴任されているとのこ とでした。 大きな地震が発生する場所を示した世界地図では、日本の位置が 見えないほど、無数の点で真っ赤になっていました。プレートの境 界線が複数重なっている日本に比べて、英国はユーラシアプレー トの安定した場所に位置しています。ただし、調べてみると、直近 60日間でも体感できない地震は30件以上発生しているとのこと。 それは、初めて知る意外な事実でした。また、2,500年間という長 い時間の間に起こる可能性のある地震の大きさについての英国 マップが映し出され、建物の設計をする場合に、考えなければい けない揺れについて話がありましたが、最も震度が高いエリアで も、最大で4から5程度、ロンドンに至っては、英国の中でも最も低 い区分にあり、2,500年間でも最大震度は2から3程度とのことで した。 ロンドンの電力施設と言えばということで、元は発電所だった TATE MODERNの建物の煙突の話がありました。煙突という高い 構築物にレンガを使用し、また、それが現存しているというのは、 大きな地震が多い日本では考えられないということでした。英国では、風に耐えられるように重くがっしりした造りになっているの に対して、日本では、風に加えて地震を考慮する必要があることか ら、軽くて根本がしっかりした構造となるということでした。 マシュマロ・チャレンジという研修で行われる、グループで取り組 む課題がとても興味深い話でした。スパゲティ20本とテープと紐 を使用し、頂部にマシュマロを刺した「煙突」の高さを競うという ゲームです。幼稚園生たちはすぐに煙突の作成にとりかかり、制限 時間内で試行錯誤を繰り返して良い結果を出す一方で、ビジネス スクールを出たエリートグループでは、取り掛かるまでのディスカ ッションに時間をかけるため、制限時間の最後にマシュマロを上 に乗せて、「煙突」が崩れるなど、いい結果が出ない傾向にあるそ うです。まずはやってみるということが大切なんだと、改めて思い ました。 小野副所長からは、送電線についてのお話がありました。東日本 大震災での設備被害で起こったのは、鉄塔が1基倒壊したことに 加えて、地面の液状化等により鉄塔の部材が変形するということ が14基で生じたそうです。一番被害が大きかったのは、碍子(がい し)が破損した41基の鉄塔により、停電につながったことでした。 東日本大震災の停電は約一週間で解消しましたが、計画停電は 二週間、計32回実施したそうです。これは、発電能力が約4割減少 したことにより、大幅な供給力不足が発生したことによります。広 域的な大規模停電(ブラックアウト)を回避するための最終手段と して、実施されたものだったそうです。 日本で始めて発生したブラックアウトは、2018年9月6日に起きた 北海道の震度7の地震によるものだったそうです。北海道エリア全 域で、ブラックアウトとなりました。話を聞いていて、北海道全域と なると、かなりの範囲だということがわかりました。その経験を経 て、対策として実施されたのは、周波数低下が発生した場合にブ ラックアウトを防ぐ自動の電力遮断装置を追加したことに加えて、 北海道本州間連系線の増強が進められているそうです。 英国でのブラックアウト防止対策については、欧州からの電力の 輸入が停止した場合や、英国内のガス火力発電所が停止した場合 などのシナリオに基づいて考えられているそうです。具体的には、 休止状態の石炭火力発電所5基の発電、電力使用のピーク時間帯 に電気の使用量を削減するデマンドフレキシビリティの活用、と いうことが行われています。最近の日本では、気候変動によるゲリ ラ豪雨など、事前に予測や準備が困難な事象が発生している一方 で、英国ではそのような心配がほぼないことから、環境が大きく 異なるということを感じられているというお話がありました。 質疑応答では、マグニチュードと震度の関係、地震が発生してから ブラックアウトになるまでに18分程度の時間差が生じる理由、原 発が再稼働するとそれが優先されて太陽光や風力発電などの送 電量が制限されることになるのか、日本と海外とで新しい電力ビ ジネスに取り組むスピードに違いはあるのか、などの活発な質問 がありました。日常生活に欠かせない電気ですが、発電や送電と いうことを考えた時には、安定的な供給という運用面や、新しい ビジネスへの取り組みなど、さまざまな変化があることがよくわか り、とても興味深い内容でした。(伊東ノリ)