万引き家族がパルム・ドール賞受賞
是枝裕和監督の「万引き家族」が今年度のカンヌ国際映画祭で最高賞を受賞した。小欄は、21年ぶりの日本映画による受賞に沸く東京に幸運にも居合わせた。前作「そして父になる」も審査員賞を受賞している。海外でも日本の名匠と評価が高まっている。公開一週間の観客数が100万人を突破したという話題作の受賞記念上映会に出かけた。
「万引き家族」の舞台は、大都会に林立するビルの谷間に取り残されたボロボロの日本家屋。高齢の未亡人の家に転がり込んだ、いわくありげな5人が疑似家族を形成し、未亡人の年金を当てにして生計を立てている。僅かの生活費を稼ぐのは、日雇い労働者の父親、クリーニング店員の母親、風俗店で働く妹。それでも食費は足りずに、万引きで賄う。社会から置き去りにされ、見捨てられた血のつながりのない5人の、ゆるやかなで温もりある「絆」が、ベテラン俳優たちの名演技でごく自然に描かれる。
数年前に年金不正受給事件が続発し、軽犯罪でしか生きられない貧困層が厳しく罰せられた。この事件を根本まで掘り下げ、深く考えたことが制作のきっかけとなった、と監督はインタビューで答えている。法の下で「犯罪者」の烙印を押された弱者に焦点を当て、彼らを否定せずに、同じ目線で見つめる監督独自の「人間観」が映画の細部で感じ取れる。
特別上映は、世田谷の二子玉川にある映画館で行われた。ここは、高級レストランやおしゃれなブティックが立ち並ぶ近郊タウン。昼下がりのレストラン街では、スマートな身なりのマダムや家族ずれが行列をつくっていた。映画の余韻に浸るどころか、日本の格差社会をまざまざと見せつけられる経験だった。
世界的に「持つ者」と「持たざる者」の格差が拡大している今、日本を含む先進社会の福祉政策は、貧困層を助けるどころか、彼らを敗残者とみなし、個人の責任として処理している。地域、企業、家族の共同体は崩れ、独居者が増えている。2040年には、独居者が全世帯の4割に上り、そのうち高齢者が半数近くになると推計されている。加えて、法の外でしか生きられない、見捨てられた貧困層の増加が報じられている。
最高賞に輝く傑作を絶対に見て欲しい。そして、社会の約束事である「法」の内側で安心して暮らせるご自身の境遇に深く感謝することも忘れないで欲しい。(T)