福祉コラム

不老長寿時代の到来か!

現在、110歳超の長寿者は世界に400名。正確なデータに裏付けられた史上最長の長寿者はフランス女性のジャンヌ・カルマンさん。享年122歳164日だった。いつの世も、不老不死は富豪や権力者の見果てぬ夢である。彼らは実現のため の研究プロジェクトに巨費を投じている。

現在、実験段階にあるのが、死体の凍結保存、頭部移植後のコンピュータ・アップロード等の研究で、恒常性維持機能の活性化、幹細胞を使った疾病治療、遺伝子操作、DNA改造などは、人々の充実した人生を出来るだけ長引かせる技術として大きなチャンスを生み出している。

 

最先端医療利用による健康長寿の実現に専心するワールドクリニック社の医学博士、ダニエル・カーリン氏はこう語る。「医学は人々の寿命を延ばすまで発達した大富豪は、既にこうした技術革新の利益を享受している。」

不老長寿に挑戦する医師は少なくない。コミュニティ・ヘルス・アソシエイツ代表で医学博士のジェフリー・フリードマン氏もその一人。「バランスの取れた人体機能を維持しつつ、自立した質の高い生活を出来るだけ長く送れるよう、病気治療だけでなく予防することで、長寿を支援することが医師である我々の使命。」と意欲を示している。

老化予防は、高齢化社会と相まって注目を集めている。ケンブリッジ大の老年生物学者、オーブリー・デ・グレイ氏は、コンピュータ・プログラマーでもある。「研究資金が潤沢であれば、50年内に寿命が500歳から1000歳にまで伸び、永遠に若いままでいられる研究を大成功できるだろう。」と前代未聞の予測をする。学界の異端児である氏は、細胞や分子にダメージを与える老化原因を次の7つに絞り込む:

ガンをもたらす染色体の突然変異

ミトコンドリアの突然変異

細胞内のゴミ

細胞外のゴミ

細胞外における架橋形成

死ぬべきなのに死なない細胞

細胞の死

グレイ氏は、「細胞や分子が受けたダメージが蓄積されて、取り返しがつかなくなる前に、修復や無害化する。こうすれば長く元気なままでいられる。老化を遅らせるのでなく、老化そのものを食い止めるのだ。」と単純明快である。その考え方を「工学的戦略」と呼ぶ。細胞に溜まるゴミをただ掃除することにより老化を防ぐ点を特徴とする。体内で埃のようにまき散らす分子を除去するにはどうするかを試行錯誤した末、土中の微生物が、棺の蓋や死衣を通り抜けて、ゴミを最後まで食い尽くしている墓場に答えを見出したのである。老化阻止のヒントが墓場にある、という氏の独創性はダビンチにも匹敵する、と評価する向きもある。

人工知能の世界的権威、レイ・カーツワイル氏も不老長寿の提唱に意欲を示す。「テクノロジーの発展が人間の寿命を延ばす。今後10~15年頑張って生きていれば、不死身になれるかもしれない、という寿命回避速度の概念(寿命が老化速度を超えて伸びること)を提唱する。人類初の150歳の人がこの世に生を受けたわずか10年後に生まれた人の中から、人類初の1000歳が登場することも現実の世界で起こりうる。医療の進歩と時間の経過が足並みをそろえる時代には、健康に最大限気をつける人が不老長寿を実現する可能性は十分にある、と予測する。

科学技術の進歩で、万一、不老不死の時代が到来したとしても、人類にとって望ましいことばかりではない気がする。善良な物理学者の研究で核兵器が生まれたことを決して忘れてはならない。長寿志向のクローンなどの先端技術が悪意ある人の手に渡った場合、果たして悪夢を封じ込め続けることができるだろうか。「人類による神への挑戦」が着々と進んでいる。その向こうに何が待ち伏せているのだろう。考えただけで空恐ろしい。(T)