ナルク部主催「人生後期のファイナンシャルプラニングの基本に戻って考えるべきことについて」のセミナーのまとめ

4月21日にファイナンシャルアドバイザーの新井康人様に先の内容でお話をいただきました。同日は初めての試みで対面とオンライン同時開催というハイブリッド形式でセミナーを行い、会場に7名、オンラインで25名の方々に参加いただきました。

まず、高齢化が進んでいることについて触れ、現在65歳の男性は25%の確率で92歳まで、女性は94歳まで生きる可能性があるために、人生後期のファインシャルプラニングは大切とお話しいただきました。

当日は4つの分野、①リタイア後の収入、②ケアコスト、③遺言書とLPAの作成、④相続と相続税対策についてそれぞれお話しいただきました。

その要約は下記のようになります。


①リタイア後の収入


自宅からの収入(部屋貸しやEquity release)、年金、不動産賃貸収入、仕事からの収入、投資からの収入など。

そして、自分の収入はリタイア後の必要経費や交際や趣味の支出などの自分のライフスタイルを維持するために十分なものかを考える必要がある。

その際インフレの考慮が必要。特に昨今エネルギー代が高騰していることからも注意が必要。現金は現行のほぼ0金利のイングランド銀行の政策金利下ではインフレ率によって価値が目減りする。例えば10万ポンドの将来価値は3%のインフレで10年後に74,300ポンド、5%の場合は61,400ポンドへ目減りすることとなる。ちなみに英国の4月のインフレ率はエネルギー代の高騰などからも7.41%。

そこで、現金は緊急事態のためにある程度保有すべきではあるものの、現金、不動産、株式、債券などへ分散投資をして、その資産配分を定期的に、また状況に応じて見直す必要がある。


②ケアコスト

ケアプアラニングとして、まずケアが必要となった場合実際に発生する手順を理解する。それは、Local Authorityによるケアアセスメントに始まり、その後どのタイプのケアを選ぶかを考え、必要であればState Benefitの申請、これらの手続きを誰が仕切るのか、そしてそのコストをどのように支払うのかを考える。

23,250ポンド以上の資産を持っている場合、NHSのContinuing Careは得られない。つまりは個人で支払う必要がある。

典型的なNursing CareとResidential Careの費用は下記の通り。しかし、質の良いケアホームなどは週1000ポンドを超える。


2023年10月から個人が支払わなければならないケアコストの上限が、86,000ポンドとなるとのこと。


元気なうちにケアコストの自己負担分をどのように捻出するのかを考慮しておくべき。


③遺言書、LPAの作成

なぜ遺言書やLPAが必要なのか。それは、遺言書が無い場合、自動的に相続人が決定され、自分の意思が反映されない。そして、手続きや遺産配分までの時間がかかるため。

LPAが無い中で認知症のように自己判断ができなくなった場合、代理人は裁判所が決定し、その決定までに時間がかなりかかり、意思決定の制限や毎年の報告義務、そして継続的な費用が必要となる。そこで元気なうちにLPAは作成すべきで、健康面と経済面で誰に代理人になってもらうかを考え準備をする。

④相続税対策

英国では資産の325,000ポンドまでは非課税、それ以上は40%課税される。自宅に限定された追加の相続税非課税枠があり(子供等、自身の直系子孫に相続する条件で)、追加175,000ポンドのAllowanceもある。つまりは夫婦で35万ポンドを超える自宅を含む100万ポンドの資産があった場合はその資産は非課税。

相続税の対象となる資産については、Domicileルールが関わる。Domicileとはどこがご自分のホームタウンかということで、国籍とは異なる。相続税上は、英国に15年以上住み続けていた場合、Deemed Domicile扱いとなる。

英国には贈与税は無い。夫婦間の相続は相続税の対象にはならない。また、亡くなる7年前までに贈与したものは相続税の対象にならない。(Potentially Exempt Transfer(PET)と呼ぶ)

Enterprise Investment Scheme(EIS)を通じての未公開株式やAIM-Listed businessの株式は2年以上保有していれば相続税の対象にならない。

その他、7年に関わりの無い非課税贈与の詳細は下記の通り。

トラストの活用

トラストとは信託契約で、Settlor(委託者、寄贈者)がトラストに資産を譲渡(贈与)し、Trustee(管理者)が管理・運用。その後Beneficiary(受益者)に分配。トラストに自身の財産を移す(譲渡)することで、相続税対策と同時に、生存中にトラストからインカムを受け取ることも可能。設定の際は、ファイナンシャルアドバイザーまたはソリシターに相談すべき。

相続税対策ポイントは、自分の財産にかかる相続税を理解し、どのようにすべきかを考え、それを定期的に見直すべき。

ファイナンシャルアドバイザーの仕事について


次のように説明いただきました。

ステップ1 目的を明確にする

ステップ2 ファイナンシャルプランの作成

ステップ3 プランの実行

ステップ4 プランの定期的見直し・変化に対応した新しいプランの作成と実行

また、人生後期のファインシャルプラニングに限らず、ファイナンシャルアドバイザーは、資産の保護、資産の運用、Cash Management、タックスプランニングやキャッシュフロー分析やWill やLPAの設定などの様々な仕事をしている。

St. James Placeの顧客に対してはケア関係全般のサービスを提供しているCare Concierge Serviceも紹介しているとのこと。

Q&Aについて

Q:Will作成に関してひな型はあるか。

A:ありますが、ご自身の意思が確実に反映されるために弁護士に頼むことを勧める。


Q:子供に全て遺産を残す場合もWillは必要なのか。

A:手続きに時間がかかるために準備をしているべき。


Q:英国の企業年金をもらうときに、一時金をもらうというオプションがありますが、1)そのメリット 2)何を気をつけるべきか。

A:この企業年金が確定給付型か確定拠出型で異なるために個人的に連絡くださいとのこと。確定給付型は英国の国民年金のように死ぬまで支払われる。確定拠出型はほぼ現在主流で、自分で年金を運用するもの。相続税対策としては確定拠出型は相続税の対象外。


Q:新井様の専門、得意とされている分野に関して教えてください。

A:現在持っている資格を得るためには広い分野の知識を必要としているが、投資に関しては過去の仕事の経歴からも得意といえるだろう。


Q:Probateについて

A:英国と日本の相続の違いは、日本は相続した人が相続税を支払う。英国は相続される資産の税金を支払った後に分配される。Probateは死亡後の資産贈与までの全般のこと。その手続き及びその流れは、死亡後遺言書に沿ってExecutorが金融機関へ死亡届と共に連絡。その後金融機関が手続き関連の資料を送付してくれる。それに沿って、遺産の総計を計算し、HMRC(英国の歳入税関庁)へ提出すると相続税が算出され、支払う。裁判所が遺産へのアクセスを許可する。その許可を持って分配が行われる。

Q:Local Authorityがケアホーム費用を支払うために所有者の意思に反して家を売却することがあるのか。

A:ありません。


Q:ファイナンシャルアドバイザー、特に新井様の費用体系について

A:新井氏は時間給ではなく、目的を明確にしてファイナンシャルプランの作成までは無料。プランの実行が行われた際に、投資額の一定の割合で費用が発生。投資額が少ないと、多い場合よりもその割合が高くなることがある。それは一定の仕事量は発生するため。なお、時間給で働くファイナンシャルアドバイザーもいるとのこと。そこで、事前に確認は必要。


Q:LPAに関して新井様にお手伝いいただくことはできるのか

A:関連の弁護士を紹介できる。また、ソリシターとのミーティングで日本語でのサポートが必要な場合、新井氏もできる限りヒアリングなどにも同席できるとのこと。


Q:遺言書の費用について

A:一般的に複雑なものでなければ300ポンドから500ポンドぐらいで作れる。


Q:遺言書のExecutorとLPAの代理人が同じでも良いのか。

A:同じでも問題ない。


Q:遺言書とLPAはどのくらいの頻度で見直すべきか。

A:遺言書2年から3年ぐらいを目途に見直すべきであるものの、問題が無ければ修正する必要は無い。LPAは大きな変更がない限り見直す必要は無い。

以上


新井康人氏の連絡先

電話番号:07557797310

メールアドレス:yasuto.arai@sjpp.co.uk

Website:www.yasutoarai.co.uk


文責:Whitehouse佐藤敦子