ナルク部「英国でのケアホーム費用とそのファイナンシャルプランニングについて」のセミナーのまとめ

英国日本人会ナルク部主催「英国でのケアホーム費用とそのファイナンシャルプランニングについて」のセミナーのまとめ

 

2021年6月30日(水曜日)午後2時より、先のセミナーがSt James Place Wealth Managementのアソシエート・パートナーの新井康人様をスピーカーとしてお迎えして、60名の方々に参加いただき、オンラインで行われました。
そこで、下記にそのまとめを記載します。
まず、簡単に後期のファイナンシャルプランニングとしては、下記を考える必要があるとし、同日は長期ケアに関して説明をいただきました。

 

  •  相続税
  •  Will(遺言書)及びLasting Power of Attorney(LPA)
  • リタイア後の定期収入
  • 長期のケア(必要となった場合)

 
統計的に現在の英国においては、平均的寿命は現在65歳の男性は85歳、女性は87歳となっていて、85歳以上の人口が増加しているとのこと。しかし、その寿命は生活環境等で25年ほど異なってもいる。
57,000人の人々が自己負担で毎年ケアホームに入所。そして、自己負担でケアホームに入っている人々が毎年支払っている費用は109億ポンド。
健康に暮らしている期間を意味する健康寿命は、英国においては実際寿命よりも3年から5年短い。
同日の長期ケアの説明としてお話いただいた項目は下記の通り。

 

1. ケアの種類
2. ケアの費用
3. 国から受けられる給付金
4. ケア費用支払いの方法
5. ケアを受ける可能性に基づいた長期的なファイナンシャルプランニング

 

1. ケアの種類

  • 自宅で家族やボランティアや専門家によるケア
  • Residential Care(看護ケア以外のパーソナルケアを提供)
  • Nursing Care(Residential Careのケアに加え医療的看護ケアも提供)

 

2. ケアの費用(2018年/2019年のデータ)

  • 自イングランドでResidential Careは平均週645ポンドに対し、Nursing Careは平均で週896ポンド。
  • そのうちロンドンでは、公営と私設の年間平均費用はResidential Careで38,688ポンド、Nursing Careで46,904ポンド。
  • 10年間で50%値上がり、つまりは年率換算で4.1%ほど。インフレ率が2%~2.5%である中で、値上がり率はかなり高い。

 

3. 国から受けられる給付金

  • Attendance Allowance
    資力検査無く、課税対象外。65歳以上で精神的または身体的障がい者があり、6か月以上のケアが必要。受給額はLower RateとHigher Rateがあり、一日に朝昼のケアが必要な場合(Higher Rate)は週89.60ポンド、朝か昼に一度ケアが必要な場合(Lower Rate)は週60ポンド。インフレ上昇率に沿って調整される。
  • Personal Independence Payment
    対象が16歳から65歳までの方である以外は、ほぼ先のAttendance Allowanceと変わらない。受給額はLiving Componentは先と変わらずStandard Rate(先のLower Rate)とEnhanced Rate(先のHigher Rate)。それに加えMobility componentがある。Lower rateが23.70ポンド、Enhance rateが62.55ポンド。
  • Carers Allowance
    ケアをしている人への給付金。16歳以上で、最低週35時間ケアをしている人。イングランドに少なくとも過去3年間に2年間居住。週21時間以上のフルタイムで教育を受けている人を除く。税引き後、仕事中のケア費用を差し引き、年金の半分を除いて、週128ポンド以上の収入がある場合も受給不可。週67.60ポンド(課税対象)
  • Registered Nursing Care Contribution
    資力検査なく、課税対象外。Residential Careに滞在していながらも、NHSの看護師が定期的に看護する場合なども対象。支払いはNHS Clinical Commission Group(CCG)より行われ、イングランドにおいては2021年4月段階で週187.60ポンド。

 

4. ケア費用の支払い方法

  • 加齢によるケアについて
    地方自治体の管轄で資力検査(Means Tested)がある。
  • Continuing health careについて
    当初ケアが必要となった理由が病気や怪我で、ケアに医療行為が含まれる場合は、NHSの管轄であり無料。この受給資格はCCGが判定。
  • ケア費用の支払いに関する判断方法について
    • 地方自治体がニーズに応じてケア費用を算出し、個人名義収入や資本と共同名義のものは50%の資本を確認する資力検査を行い、誰が支払うべきかを判断。
    • Personal Expenses Allowance
      収入の中から、イングランドにおいては週に24.90ポンドは経費として認められ対象外。
    • Capital Assessment
      イングランドにおいて、23,250ポンド以上の資産がある人は、ケア費用は全額負担。
  • Capitalに含まれないもの
    • 自宅がTrustに含まれている部分や、投資型生命保険。
    • 次の場合は自宅であっても含まれない。①配偶者やパートナーが居住している。②60歳以上の親戚が居住。③障害を持つ親戚が居住。④18歳以下の子供が居住。⑤前記の条件を満たさない場合、ケアホームへ移って最初の12週間。
  • 下記の場合は資本に含まれない贈与と認められない。
    • 贈与が6か月以内の場合。6か月以上でもCapital Assessmentを逃れる目的とみなされた場合。

 

5. ケアを受ける可能性に基づいた長期的なファイナンシャルプランニングの例

  • The Deferred Payment Agreement
    自己負担のケア費用を地方自治体と交渉して建て替えをしてもらう。そして、亡くなった際に自宅を売却して支払う。
  • 不動産を賃貸に出す
  • Equity release
    ケアを自宅で受けたい場合、自宅を担保に銀行からケア費用を借りる、Life time Mortgage(60歳以上であれば利用可能)等。
  • 資産を現金化
  • 現金としておくのではなく投資し、それを必要に応じて利用
  • Care Fee Annuities

 
ケア費用を捻出するために、一括で支払い、毎月の収入を得る。
以上はプランニングの一例で、それぞれ長所・短所がある。実際には、個人の状況に合わせた最適なプランニングをケアフィープランニングの資格を持つファイナンシャルアドバイザーに、相談するのが良い
 
最後にLasting Power of Attorneyの重要性を再度お話しいただきました。それは、ケアが必要となった際に、その詳細を自分自身で決めるのは困難である可能性がある。そのために早い段階で、その費用のためのファイナンシャルプラニング、どのようなケアを受けたいのかを含めて、ご自身に代わり誰が責任を持つべきなのかということを考え決めていることは重要であるとのこと。
それに加え、まずは下記について少なくとも検討をしておくことが必要でないかとお話しいただきました。
 
I. ケアが必要となった際に十分な資本・定期収入があるのか。
II. ケア費用は保有資産を早いペースで使いきってしまう可能性があることについて。
III. 現在保有されている投資資産をケア費用支払いでどのように効率よく利用するか。
IV. 最も節税効果のある方法を考慮されているか。
V. 資産を家族に残す、または自分が使い切るのか等についても考慮されているか。
VI. もし自宅を売却せざるを得ない場合について。
 
同日のまとめは下記の通り。
A. ケア費用は基本ご自身が払うことになる。
B. 地方自治体からの給付金は多額ではない。
C. ケア費用の捻出方法は個人個人で異なる。
D. このようなファイナンシャルプラニングは今後より専門家を必要とすることになるのではないか。
 

Q&A

[質問]
リタイアメントアパートメントを投資目的で購入する場合のメリットとデメリットについて
[回答]
リタイアメントアパートメントはケアホームとは少し異なる。リタイアメントアパートは基本独立した生活をする場所であるが、追加高齢者向けサービスがある。そのために、サービスチャージが高く、購入者の年齢制限もある。そこで、Buy to letなどの投資目的としては考えるべきではないのではないか。それは、テナントがいなくても高いサービスチャージが発生することから。そのため、投資目的であれば普通の不動産を購入してはどうか。


[質問]
Registered Nursing Care Contributionの位置づけについて
[回答]
NHS Clinical Commission Group(CCG)によって支払われる給付金。NHS Continuing Careから外れてもRegistered Nurseの看護が必要な場合、CCGから給付を認定されれば、ケアホームへ直接支払われる。例えば看護ケアのないResidential Careに滞在していても、看護が必要な場合は申請すれば、CCGから補助が出て、Registered Nurseの看護を受けることができる。


[質問]
資本が23,250ポンドを超えた場合も、地方自治体からの援助は無いものの、病気などによるケア費用はNHSが支払うと考えて良いのか。
[回答]
病気の場合はNHSがそのケア費用は全額支払う。


[質問]
自分の資本でケア費用を賄い、その資本が尽きた場合、地方自治体から援助は受けられるのか。
[回答]
受けられる。それは、Care Assessmentはご自身の健康状態が変わった際や、長期ケアが行われて資力が途絶えた際など、随時申請できるので、その状況に応じて援助を受けられる可能がでてくる。


[質問]
看護が必要な場合は、Nursing CareやResidential Careに関わりなく受けられるのか。
[回答]
医療看護が必要と認められた場合はケアホームでNursing Careが受けられる。


[質問]
アルツハイマーや認知症になったために、Nursing Careが必要な場合、CCGからの補助が出るのかについて。
[回答]
アルツハイマーが対象かどうかということではなく、総合的な判断になるので、まずは申請をして、補助が出るかを確認されるべき。
 
そして、新井氏が勤めるSt James Place Wealth ManagementはCare Conciergeという、ケアホーム選択や給付金申請等のケア関連を包括サポートする会社と提携したために、興味があればご一報くださいとお話しいただきました。
特記事項:先で記載されている内容と数値は現時点(2021年6月30日)での情報ですので、将来的変更される可能性があります。
 
先のまとめは英国日本人会ナルク部でまとめ、新井氏に確認いただいたものです。
なお、新井康人氏の詳細は下記のようになります。
Yasuto Arai DipPFS,
Yasuto Arai Wealth Management
Associate Partner Practice of St. James’s Place Wealth Management
Mobile 07557 797310
Email yasuto.arai@sjpp.co.uk
Website https://partnership.sjp.co.uk/partner/yasutoarai

以上